2011/07/18

活字の虫

「夕ぐれ」

鴉が向うの方へとんで行く。
まるで火のやうなお日様が西の方にある丸いお山の下に沈んで行く。
——夕やけ、小やけ、ああした天気になあれ——
と歌をうたひながら、子供たちがお手々をつないで家へかへる。
おとうふ屋のラッパが——ピーポー。ピーポー ——とお山中にひびきわたる。
町役場のとなりの製紙工場のえんとつからかすかに煙がでてゐる。
これからお家へかへつて皆で、たのしくゆめのお国へいつてこよう。

平岡公威(三島由紀夫)、9歳の作文

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